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いつになったら、僕らは大人になるのだろう

 誕生日を迎える間隔がだんだんと短く感じる今日この頃、そのXdayがとうとう明日に迫ってきた。

 6月22日。
 此の世にこの上もなくたっとい宝が誕生した記念すべき日である。

 この日付を覚えていたらば、もしかすると今年のセンター試験で一問分得をするかもしれない。
 一問と言うと小さく思われるが、その点数が一生を左右するかもしれないので、そう考えていただくと、まあそれなりに尊いということもわかっていただけようか。

 そんな日が迫ってこようとしているので、自然と気持ちも粛々と畏まってくる…というのは真っ赤な嘘である。
 六月に入ってからというもの、休日にはダラダラとしてばかりで、先日などはアラサー達と卓を囲んでいた。

 行っていたのは、麻雀ではなく、ドンジャラである。
 ドラえもんが描かれている、例のアレである。

 青いタヌキに一喜一憂したり、女の子よりも男友達と遊んでばかりなおパンチラさんに毒づいたり、1点にしかならない小太り中年を一巡目で皆が切ったり…。
 そんなことをしていると、山際から日が顔をだし、夜の帳はいつの間にか取り払われていた。

 朝日の眩しさに目が眩み、「ああ、社会人になっても、私はまだこんなことをやっているのか」などという自責の念に駆られそうになった。


 他にも、こんな事があった。

 某オークションでのことだ。
 社会人としてがんばっている自分へのご褒美にと、私はとあるプラモデルを落札しようと、仕事の合間を縫っては、携帯電話で値段の確認などをしていた。

 18万とか、気がくるっとる…などと冷静に考えつつも、30万までなら出す…と目をぎらつかせていた。

 だって、独り身だし。誕生日を祝うのは、自分ひとりだもの。
 そんな魔法の言葉に背中を押されたりもした。

 オークション最終日。
 はあはあと荒い息遣いのまま、気がつけば値段は限界の30万を越え、35万円台に差し掛かった。

 どうしよう。
 そんな煩悶はなかった。

 40万までつぎ込めるはずだ!
 後は、霞でも食って生きよう!!
 そんな潔さに、私は憑き物が落ちたような心もちになった。

 そして、40万と入力したのであった。
 一番の高額入札者は私となった。

 へへっ。
 これで良かったんや。
 通帳の残高を思い、力なく笑った。
 一抹の誇らしさを胸に秘めて。

 だがしかし。
 非常事態に見舞われることとなった。

 何故か私の入札がなかったことにされているのである。
 我が目を疑った。
 なんだ、どうしたんだ。
 40万という値段がいけなかったのか。
 もっと小さい単位で上げていかないといけなかったのだろうか。

 疑念は数多、湧いては消えた。
 私はとにかく混乱した。

 駄目もとで再び入札すると、もうこのオークションには参加できません的なニュアンスの言葉がかえってきた。

 どうなっているのだ!?
 ワケがわからないまま、オークションは終わった。

 落札価格は38万である。
 私はもっと出せていたのだが…いったい何故かしらん。
 出品者に連絡を取ろうにも、アドレスも知らないし。
 分かるのは、奈良県に住んでいるということだけである。
 私も住んでいる所なので、なんとなく親近感なぞを抱いていたのだが。

 暫くしてから、商品説明ページに出品者の権限で取り消したというような旨が追記された。
 他の説明はなかった。

 やりたい放題である。
 けれど、これがまかり通るのが、このオークションという魔窟の怖ろしい所である。

 私はその絶望感やら虚無感を抱えたまま、アラサー達とドンジャラに耽溺した。
 結果的にコインは塔を形成し、とんでもないバカ勝ちをしたのだが、それでもやはり虚しかった。

 そして朝やけの眩しさに目を細めながら、思ったのである。
 四捨五入すると三十路にもなるのに、いつになったら私は大人になれるのであろう。

 ドンジャラにプラモデル…こんな大人になるはずじゃなかったはずである。
 どこで人生設計を間違えたのであろうか。

 私の目下の目標は、タイムマシンを見つけることである。
 そして、全てを正すのだ。
 けれど、どれだけ机の引き出しを開閉しても、そのような未来のマシーンなどにはお目にかかることがでない。

 青いタヌキはどこにいるのか!?


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大切な報告があります

            /◆

 みなさんに大切な報告があります。
 僕こと甲(キノエ)はこの度、5年付き合った彼女との結婚を決意するにいたりました。

 その理由というのは、出来ちゃったからでして。
 なんだかいい加減な気がしていたものですから、そんな理由での結婚はイヤだね、なんて昔は彼女と話したりしていたのですけれどね。

 そういった考えは、でもすぐに変わりました。

 赤ちゃんは天からの授かりもの、あるいは、恵みと言い換えてもいいかもしれない。
 全ては神のみぞ知る。
 だから僕らはその運命を享受し、真摯に受け止めようと思ったのです。
 神さまが背中を押してくれたと考えると、前途もひらけていそうで、いいでしょう?


 大学二回生のころ、僕たちはロンドンにいました。
 日本人の少ない留学先ですから、僕らはすぐに意気投合した。

 目まぐるしい講義に焦り、あまりに違い過ぎる生活習慣にとまどいながらも、空いた時間を見つけては、二人で管を巻いたり、あるいは励まし合ったりした。

 状況が、僕ら二人をくっつける引力のような力を持っていたと言ってもいいだろう。
 僕らは引きつけられ合っていたのだ。目に見えないものの力を、幾度感じたことだろうか。

 けれど、今ひとつ踏み出せないでもいた。
 なぜなら、高校の頃から付き合っていたかつての恋人との手痛い別れが、僕の心に大きな爪痕を残していたからだ。

 身を引き裂かれそうになる痛みに、厭な汗とともに幾度、朝まだき夜に目を覚ましたことだろう。
 そして、涙はいつ涸れてくれるのかと、歯を食いしばって耐えてきたのだ。

 また同じ苦しみを味わうことに、僕は臆病になっていた。

 しかし。
 そんな不安を、彼女はいとも簡単に振りはらってくれた。

 留学最終日前夜のことである。
 僕らは強かに酒を飲み、肩を組みながら二人の寝床を目指していた。

 その時、ふと風が吹いた。
 乾いた風だった。

 それから、月が雲間から顔を出した。
 暗い街に、光が差した。

 生まれ育った土地とは違えど、夜空の美しさは等しく、そしてまた星を仰ぐ彼女の顎のラインの流麗さも、一欠けらも損なわれてはいなかった。

「日本でも、君と星を見たいな」と彼女は呟いた。

 その呟きは、それまで張り巡らせていたバリケード全てのすき間を上手く尽き、すとんと僕の心の一部分におさまった。

 おかげで、もう。
 恐怖はなかった。

「今みたいに?」と僕は訊いた。
「今みたいに」と彼女は言った。

 それから蕩けるような科白を長々と喋ったが、あまりに恥ずかしいのでそれは割愛させてもらいます。

 とにかく、僕は空に浮かぶ月に誓ったのだ。
 なにがあろうと彼女を幸せにしてみせるって。

 その誓いの全てを守れているかはわからない。
 けれど、お腹が目立つ前に結婚をしようかと提案すると、涙を流しながら満面の笑顔で応えてくれた。

 それはまるで、ロンドンの最後の夜に告白したときとよく似ていて。
 ああ、僕はどうしようもなく彼女を愛しているのだなあと、再認識したのでした。


            /◇

『――再認識したのでした』

 全てをメモ帳に打ち終えた私は、おもむろに肩を鳴らし、それから大業に立ちあがった。

 身体は震え、手は悴んでいる。
 吐く息は白く、噛みあわない歯がかちかちと耳にさわる音を立てていた。

「ああああああああ!」と私は叫んだ。「誰か! 私にホットミルクを!」

 あるいは、毛布でもいい。
 取り急ぎ、暖を取れるのであれば方法は問わない。

「なにがロンドンだ! 愛してるだ! 結婚だ! こんな幸せに彩られたブログ、絶対に読まねえ!!」

 というわけで、まさか甲ってリア充なんじゃ…とブラウザを閉じようとした諸兄!
 そんな心配は無用である。

 おおよそこんな桃色野郎どもと正反対に位置するのが、現在の甲氏であるのだから。


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この物語は50%フィクションである

 程度の差こそあれ、孤独というものを知らぬ人はいないだろう。
 ひとりである事の辛さや寂しさを味わわないと豪語してはばからない人は、見栄っ張りか意地っ張りか、そうでなければよっぽどおめでたいかであろう。

 私はその誰しもが感じるであろう孤独に苛まれ、苛まれ、苛まれ…あまりの孤独っぷりに世に蔓延る幸せな桃色カップル達の前途に断崖絶壁を築かんことを、と天を仰いで祈願などしていた。

 天は願いなど聞き届けてくれず、夜空できらきら輝く星達は見上げるカップル達の恋愛度数をうなぎのぼりに高めていくばかりであった。

 世の無情を嘆かずにはおられぬ。

 泣いたり喚いたりしながらも紆余曲折を経て、私はツイッターにその助けを求めてみたりした。

 これこそが人と人とのつながりを強めてくれる必勝のツールとならんことと信じて。

 けれど。
 やはりそこでも私はひとりであった。

 ひとりなう。
 その叫びは誰にも届かない。
 紹介してくれたK村にさえも。

 私は・・・泣いた。


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非モテ三銃士-甲氏の発憤-


            ◇

 まほろば奈良の都には、三人の勇士が存在する。
 その者たちは猥褻なことに明け暮れることを良しとせず、ただ無為に日常を浪費し、酒をかっ食らっては世間に管を巻くという非生産的な生活を送っていた。あるいは、仙人的と言い換えてもよいであろうか。
 そんな崇高な彼らを人々は侮蔑し、ああはなるまいという畏怖もちょっぴりこめて、非モテ三銃士と呼ぶ。

 何を隠そう、栄えある非モテ三銃士の末席を汚しているのが、この私、甲(キノエ)である。

 同級生たちがコンパだの飲み会だの乱交会だのと紳士淑女らの嗜みを身に着けているころ、かつての私は微温湯のように怠惰な生活を享受しており、六畳一間の我が城において独裁政権をふるってばかりいた。
 民衆はおらず、ただ王がいるのみである。
 乙女たちの誹謗中傷に傷つけられることもなく、同性からの哀れみや施しに肩身の狭い思いをすることもない。
 故に、私の思うがままに事は運び、全ては個人内で完結する。

 人々は空しくなかろうかと問おう。
 当時の私であれば鼻で笑い、強者は常にひとりでいるのだと胸を張ったかもしれぬ。

 だが、生憎と王国での生活に嫌気がさすこともあった。
 2月になると町は彩られ、猥褻な茶色のお菓子がそこここに散見されるようになる。
 巷で騒がれるスイーツ系男子であるところの私は、町がチョコレートで彩られることには悪い気はしないものの、それが手に入らぬ絵に描いたチョコであるのだからやり切れぬ気持ちにもなる。

 そんなわけで昨年度などは、日本人らしく豆まきに精を出さぬ不埒な輩めがけて豪速豆のつぶてをお見舞いすることに心血を注いだ(豆まき狂想曲参照)。
 その折、同じく豆つぶてをまくことに、松坂もかくやという強肩を見せ付けていた益荒男たちがK村とY田である。

 私たちは目と目を合わせたその瞬間に、万感の邂逅を経験した。
 まるで竹馬の友と久闊を叙すかのように、私たちは手を握り合い、滝のような涙を流しあった。

 こうして三人は行動を共にすることになった。
 東に町ゆく恋人たちがいれば冷やかしをおくり、西に恋の芽生えがあると察すればただちに芽を摘みに参上した。
 雨の日であろうが、風の日であろうが、私たちは休みなど返上して、ただただ非生産的にすごした。
 その当然の帰結として、私は非モテ三銃士のひとりという不名誉な称号を授かることと相成ったわけである。


            ◇

「またこの時が来たのだ」とK村は言った。

 彼は日夜、接客業に苦心する悩める社会人である。
 目上の者にもっぱら弱く媚びへつらい、下の者には親の仇かというくらい辛辣に接するという勤め先の薬局の店長とは、正義感の権化の如き彼とはそりが合わぬようである。
 些細なミスをついてはK村を罵る店長への憤りが、巷間の恋人たちへと向けられた時の想像を絶する莫大なパワーは、筆舌に尽くしがたいものがある。

「そうだ。世間は浮かれてはならん。なにしろ氷河期なのだから」とY田は言った。

 この就職氷河期に職を辞し、それでも慌てない慌てない、一休み一休みと悠然としている彼は、途方もない大物である。
 そうでなければ底なしの阿呆だ。
 そのどちらであれ、油断してはならない男であるのは確かである。

「寒いこの時代に、猥褻な茶色いお菓子などにうつつを抜かすのは、軟弱の極みだ」と私は声を大にした。

 気の小ささに定評のある私は、隣人が大声に苛立って壁を叩いた音に、おっかなびっくり首を竦めた。
 それから小動物のような保護欲を煽る愛らしさで、周囲を警戒した。

「今年こそは鉄槌を下すのだ! あのにっくきHに!」とK村が言うと、「Hが裏切るからいけないのだよ」とY田も賛同した。

 Hというのは、かつて非モテ三銃士の主席で燦然と輝いていた男のことである。
 その男、矮小で体躯も細く、おまけに無口で小さなことに固執する。およそモテから程遠い輩であったそうな。

 しかれども、運命というのは複雑怪奇なものである。
 そんなHに彼女が出来たのだ。
 それも小動物系の可愛らしい乙女であったのだというのだから、K村とY田の胸中の阿鼻叫喚っぷりは想像に難くないはず。
 彼らは血の涙を流しては、歯が砕けんばかりにぎりりと歯をかみ締め、その寂寞感と身を焦がす嫉妬の焔に耐えた。
 その話を聞いたことで私も怒り心頭に発し、彼らとの結びつきもより強固なものとなった。

 全てはバレンタインというこの良き日に、Hと彼女の恋路を邪魔せんがために、手と手を取り合うことを誓い合った。
 私たちは時折、馬に蹴られて死んでしまうという悪夢に悩まされもしたが、その決意はかわらなかった。

 そして非モテの神様に向けて、ただでさえ寒い奈良の地で、冷水を被りながら祈り続けた
 縁を結ぶ神様もいれば、それを千切る神様もいるはずである。
 なにしろ八百万というのだから、どんな神様がおわしてもおかしくない。
 それに殊更、我らとは縁のありそうな神様であるから、祈れば通じそうである。

 冷水に肌は悴み真っ赤になり、唇は紫に変色し、白い吐息は次第に弱弱しいものと転じていった。
 なんでこのような阿呆なことをせねばならぬのか。

 真冬にトランクスしか身にまとわないばかりか、しとどに濡れることが、Hへの鉄槌にどう繋がるというのだろう。
 苦行と鉄槌を結ぶ等号はどこを探しても見つからず、私はへこたれそうになった。

 だが、そんな時である。

「この世の春を謳歌する恋仲の二人を引き裂くためには、これでも生ぬるい!」

 Y田は潔くブリーフを脱ぎ、全裸になって冷水を浴び続けた。
 その痛々しい姿は、いやに私とK村の胸を打った。

 そうだ、我らの誓いを果たさんがために、労苦を惜しむなどと恥ずべきことである。
 私たち二人も生まれたままの姿となり、生まれたての子鹿のようにぷるぷると震えながら、バレンタインなどという邪知姦計の権化は打つべしと歯を食いしばった。

 するとどうであろう。
 雲は黒く厚く空を覆い、ちらほらと雪が降り始めたではないか。

 その結果、本日の2月13日は豪雪となり、来るべき14日には恋人たちが引き裂かれるという散々な、けれど私たちにとっては痛快な日がやってくる予感がした。
 このまま全ての交通機関に多大な迷惑をかけながら、雪よ降り続け、と我らはさらに柔肌に冷水を打ち浴びせ続けた。


            ◇

 バレンタイン当日。
 夜半まで降り続いていた雪は次第に雨へと転じ、積もっていた雪は簡単に融けてしまった。
 燦燦と照りつける太陽は、雪の痕跡を残すまじとばかりに目が痛いくらい元気であった。

 ぷりぷりと怒る私とは対照的に、K村とY口は表情穏やかで、剣というものがなかった。
 憑き物が落ちたかのような二人の様子に納得がいかない私は、悔しくないのかと口角泡を飛ばした。

「昨晩の帰り道に偶然、Hの彼女に会ったのだ」とK村は言った。「そこで、彼女から義理チョコをもらったのだ」

「人生で初めて。この感動はいかばかりであろう」とY口は咽び泣いた。うれしくとも、人は泣くのである。

「冗談ではない!」と私は怒り心頭に発した。「君たちがそんなだから、雪が積もらなかったんじゃないのか! 私たちのこれまで積み重ねてきたものはいったいなんであったのかっ!」

 激を飛ばせども、暖簾に腕押し糠に釘。
 彼らは茶色のお菓子の虜へと堕落してしまった。

 しこうして私は再び孤高の存在へと昇りつめることとなった。
 正直、もはやひとりでいるなど苦痛でしかたがない。
 どこかに同志は存在しないのか!?


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いじわるな弟

 兄は真面目な男である。
 学校に遅刻することもなければ、宿題に追われることもなく、まるで決められていることを順番に消化していくかのように、無駄なく日々を送っている。

 でも少なくとも、昨年まではそうではなかったはずである。
 真面目ではあったが、彼は弟の僕からみても愚鈍で、要領の良さなんてちっとも持ち合わせちゃあいなかったのだ。

 ある時、その疑問を兄にぶつけてみることにした。

「どうして、君はそのように時間とうまく付き合うことができるようになったんだい」

 すると、兄は秘密の話をするかのように、僕の耳に口を近づけ、囁くように言った。

「実は、こいつには秘密があるのさ」

 そして彼は懐中時計を取り出した。
 昨年の誕生日に父から送られたものだ。

「この時計は実際のものよりも少しばかり遅れていてね。歩みが遅いのさ。そのくせ、きっちり24時間の帳尻は合わせちまう。なんとも要領の良いやつってわけさ。僕はね、こいつが急いでいる時には同じようにあくせく動き回り、落ち着いて時を刻んでいる時は、こちらも腰を落ち着けて休むって寸法さ。そうすれば、世はこともなし。万事恙なく過ごせるってわけなのさ」

 真面目で愚鈍な兄らしいな、と僕は思った。
 ようするに要領の悪さを、父の送った時計がカバーしてくれているってわけだ。

 観察してみるとなるほど、彼はよく時計を確認していた。
 そこでどう動くべきかの指針を得て、それから行動に反映させているのだ。

 生来の真面目さと、単調なことを苦とも思えぬ愚鈍さが幸いして、彼は実に手際よく時計の恩恵を享受しているというわけだ。

 僕はそれが何だか面白くなかった。



 ある日のことである。
 悲痛な表情の兄が僕を叩き起こした。

「どうしたっていうのさ」と僕は不機嫌に問うた。

「大変なことが起こった」と兄はこの世の終わりかという表情をしてみせた。「こいつを見てくれ」

 兄は懐中時計を僕の顔につきつけるようにした。
 あまりに近くてよく見えず、少し頭を下げ、目を細めて見ると、なるほど、時計が動かなくなっているのである。

「電池が切れたみたいだねえ」

「電池だって! それはどうすれば元にもどせるんだ!?」

 時計がないだけでこうも狼狽するものか、と僕は少しばかり苛立ったものの、やはりこれが本当の彼なのだと少し気分がよくもなった。

「電池を変えればいいのさ。なんなら、僕がやってやろうじゃないか」

 兄はたいそう喜び、僕の両手をとってぶんぶんと上下に振った。

 嬉しそうにしちゃってさ。
 僕がどんな悪事を働こうかって画策しているなんて、想像もできないんだろねえ。

 翌日、僕は兄に細工した時計を渡した。
 時計が動いていることに満足した彼は、僕にたくさんの小づかいをくれた。
 時計の歩みのはやさが半分に変わっていることも気付かずに、いい気なもんさね。

 こうして愚鈍な彼は時計に合わせて動こうとするものの、一日の歩みをこれまでの半分のはやさで動こうとする時計を基準とするものだから、どうしてもこれまでのように満足に物事をこなせない。
 以前よりも要領の悪い彼は、見ていて腹がよじれるくらいに困惑していたものさ。

 まあしかし、さすがにおかしいと気づくくらいの頭は持っていたらしい。
「何だかおかしいんだ」と兄が僕の元に時計を持ってきた。

「ううん、どうも電池が安物だったのがいけないらしい。時計を動かす力が足りないんだ」

 兄はそんな嘘をすぐに信じ込み、僕に幾ばくかの金を握らせ、すぐに直してくれるように頼んだ。

 僕はすぐに行動した。
 兄の望んだ通り、時計を早く動くようにしてやったのさ。

 ありがとうと慇懃に礼を述べた兄は、十秒に一周りする時計を受け取ると、目を見開いて驚いて硬直した。
 その間も、ぐるぐるぐるぐる、時計は回っている。
 兄はその動きに合わせようとしてあたふたとしたかと思うと、みるみるまに老いさらばえ、しまいには骨となったかと思うとそいつも風化し、風にさらわれてどこかへ飛び去ってしまった。

 時計がぽとりと地面に落ちた。
 律儀にも時計は持ち主がいなくなっても時を刻み続けている。

 まいったな。まさかそこまで愚鈍だったなんて。さて、父さんになんて言い訳したものだろう。

 怒られちゃあたまらないと、僕は少しばかり焦って知恵を搾り出そうとした。

 そうだ!
 時計の針を逆周りにしたら、もしかしたらビデオテープを巻き戻したように、兄の形が復元されるのではないか。

 その閃きに僕は小躍りし、さっそく実行にうつした。
 するとどうであろうか、僕の視界がみるみる低くなって、周囲がどんどん大きくなっていく。

 なんということであろう。
 逆巻きの時計は、今度は僕に影響を与えているらしく、僕は次第に幼い頃の姿へと転じていく。

 その間も、ぐるぐるぐるぐる、時計は回っている。
 ああ、僕はいったいどうなっちまうんだ!?


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甲-キノエ-

Author:甲-キノエ-
美しく調和のある人生を!

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